「30代後半オカンひとり旅」は、ホームである滋賀県を基点に毎月1都道府県を旅し、40歳までに47都道府県制覇を目指すライフイベントである。仕事や家庭がある中、あえて一人旅をすることを楽しむ。2025年6月からスタートし、この度第6都道府県目をクリア。
2025年11月、第6都道府県目は静岡県だ。
6度目となると、家族も慣れてきたのか「次どこ?」とか「今回も同じ感じかいな?(朝出て次の日の夜遅くに帰ってくるのね?晩ごはんまでお世話必要ね?)」とか、子どもや義母が聞いてくるようになった。そして、義母へのお土産だけは忘れない私なのである。
さて、石川県・富山県と続いて今回の静岡県も人生初上陸の都道府県だ。
静岡県の印象といえば「お茶」である。あとは「富士山」。そして「うなぎパイ」。その程度の知識しかない。
そういえば、大学に入学して初めてできた友人が静岡出身で、その子の方言が可愛かったのを覚えている。関西でいう「~やんな?」とか、関東でいう「~だよね?」みたいな時に、その子は「~ら?」と言っていた。彼女は柴咲コウに似た美人で、大きな目でこちらを見上げながら(私の方が背は小さかったはずだが、何故かいつも上目遣いだった)「~ら?」を使われると簡単にノックアウトした記憶がある。
卒業してからは疎遠になってしまった。一度会おうということになったけれども、直前で「会えない」と言われて、それきりだ。別に喧嘩別れしたわけではないのだけれども、私には会えない何かが彼女にはあったのだろうと思う。
静岡という県は、東西に長い。
京都から東京へ向かう“のぞみ”ではいつも素通りしてしまうから、静岡はてっきり小さな県なのだと思っていた。とんでもない。長い。
今回の旅のメインは、静岡市より西のエリアである主に浜松市。「天竜浜名湖鉄道」という路線に乗りたかったからだ。通称「天浜線(てんはません)」は、愛知との県境「新所原(しんじょはら)駅」から静岡市と浜松市の間にある「掛川駅」の2点を「天竜二俣駅」を中心に結ぶ路線だ。
「天竜二俣駅」と言えば、転車台があり、『ヱヴァンゲリヲン』の映画で“第3村”のモデルとなった地である。私も一応、“第3村”がどんな描写をされているのかだけ履修して静岡行きをスタートさせてはいる。かといって、とりわけ『ヱヴァンゲリヲン』に詳しいわけではない。一般人レベルのことしか知らない。
掛川駅で“読書ワーケーションフリーきっぷ”を購入する。数量限定の企画のようだ。栞のデザインのそれには「本を片手に、旅に出よう」という魅力的なコピーが書いてあった。
天浜線はワンマンで、1車両。1時間に1本程度しか列車は来ない。車窓からの景色は、日本の原風景だと評判だ。そんな天浜線が1日乗り放題になる。
とはいえ、この日の出発は12時59分。天竜二俣駅以外で途中下車している時間はなさそうだ。ま、ゆっくり本が読めればいいか。
私はミツバチのキャラクターで飾られたラッピング車両のボックス席一つを陣取って、持参した文庫本ーーー池井戸潤の『果つる底なき』を開いた。
走り出した列車は、思った以上にゆらゆらと揺れていた。活字から目を離して車窓の外を見ると、前日の雨が嘘のように空は晴れていた。気持ちがいい天気だ。窓越しの直射日光ですら気持ちがいい。ポカポカは、ウトウトを呼ぶ。そして初めの駅の名前を聞いてすぐ、私は意識を手放してしまった。
目を覚ますと、……

